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第5講 視点を変える

更新日:2019年3月1日

皆さんも、「視点を変えなさい」という指導を一度は受けたことがあると思います。でも、具体的にどうすればいいのか深く考えたことはありますか? そして、本当に視点を変えることができた時、何が起こりましたか? もしくは、一体何が起こると思われますか?


ロンドン バンク シティ 旧王立取引所 ロイヤル・エクスチェンジ
ロンドン駐在最後の月、数少ないバンクホリデー(祝日)による3連休があったので、急遽フィレンツェとヴェネツィアを観光で訪れました。下調べする時間が無かったのですが、ホテルを出てすぐにフィレンツェ6回目という日本人の旅の達人に出会い、「ドゥオーモとヴェッキオ橋だけは行くべし」と助言を頂きました。先達の教えに従い、フィレンツェではその2箇所に的を絞って市内観光に繰り出しました。

偶然の出会い

1998年、8年間に及ぶ最初の欧州駐在を終え日本に帰任しました。東京本社の海外事業部に異動する前の数箇月間は高知本社勤務でしたので、車で30分離れた実家に居候しました。駅前から幹線道路までの再開発は進んでいましたが、当時まだコンビニ各社が出店攻勢をかけていない時代です。コンビニの代わりにSPARがありました。オランダのアムステルダムに本部を置く老舗の小売チェーン店です。その頃から次第にコンビニに押され衰退していったので、若い方はご存じないでしょうね。ここのSPARも間もなくして廃業し、店舗自体が完全に建て替わってauショップになっています。


いつも雑誌や書籍はTUTAYAで見ていたのですが、その日は何気なく隣にあるSPARに立ち寄り、何気なく1冊の薄いA4版ムック本を手に取りました。コンビニ系の店舗では限られたムック本しか置かないため、大きな書店より目立ちやすいのです。ムック本のタイトルは『どんどん目が良くなるマジカル・アイ』。その後シリーズ本が20年以上にわたって発行され続ける大ヒット作です。手に取ったのはシリーズ最初期の本ではなかったでしょうか。一時期、次々と新作を購入し、現在でも仕事の合間に活用しています。


巨大ドームが特徴的な左側の建物がドゥオーモ(大聖堂)で、右の塔はジョットの鐘楼、映っていないサン・ジョヴァンニ洗礼堂の3つの建築物を合わせてサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂と呼びます。ドゥオーモの入場口にはとぐろを巻く長蛇の列ができており、時間の関係から入場を諦め、外観だけを楽しみました。

あっ、見えた!

手に取った目的は、タイトルに謳われた通り視力回復だったのですが、基本的に興味本位です。仕事を終え帰宅すると、簡単に説明されている要領通りに、毎日イラストを眺めていました。


するとその日は突然やってきます。何とイラストが立体的(3D状態)に見えるのです。3D映画のように赤青眼鏡を掛けたり、画像が赤青の線で描かれている訳ではありません。普通に平面的なイラストが、ある時突然に奥行きを持った立体的なイラストへと激変するのです。


半信半疑のダメ元で購入した冊子でしたが、予想もしていなかった現象にほとんどパニック状態です。平面のイラストが立体的に見えた瞬間、ただただ笑いが込み上げてきました。毎日会社から戻って来ると、毎晩独りの部屋でゲラゲラ笑っているので、両親は「この子は帰国して気が変になったか」とでも心配していたかもしれません。


見えないモノが見える

何が起こったのか説明します。両手で持ったイラストを眺めるのですが、その表面に視点の焦点距離を合わせるのではなく、冊子を突き抜けて遠く奥の方に視点を運びます。見ようと集中するのではなく、ぼんやりと眺める感じです。すると、その焦点距離で認知できるよう予め描かれた部分が変化を起こし、イラスト全体が立体的に見えてくるのです。


なぜ視力回復効果が謳われているかというと、手で掲げた冊子(1mほどの距離)を見ているにもかかわらず、眼の水晶体を調整する毛様体筋が遠くを見ている状態と同じように動くからです。手軽にできる毛様体筋肉トレーニングですね。視力回復のために遠くの景色を眺めることがありますが、ただ眺めるだけだと実感も無ければ楽しくもありません。その点、平面イラストが立体的になったり、見えないモノが見えてくる訳ですから、脳ミソに刺激を与えながら筋トレ効果を楽しく実感できるという仕掛けです。


仕事で長時間にわたりPC画面を眺めていると、どうしても毛様体筋が凝り固まってしまいます。そういう時にこの本を手に取れば、眼球のコリがほぐせ、脳ミソもリラックスさせることができます。超画期的です。お手軽なのに効果覿面、売れるはずです。


物理的な現象

見え方には大きく3通りあります。①イラスト全体に立体感が出現する方法、②隠れていたイラストが立体的に浮き上がる方法、③隠れていた文字が前面に浮き出す方法です。いずれの場合も毛様体筋を動かすことで水晶体の厚みを変化させ、異なる視点から眼球に届く光を網膜上に結んで、ピントの合った立体像を脳に認知させています。


視力回復以上に重要かつ有意義な発見は、"視点を変えると見えないモノが見えてくる" という事象が、哲学や思想、教訓や文学ではなく、純粋に物理的な現象として発現するという驚愕の事実です。気持ちの問題ではなく、生理学的に身体に起こっているのです。


あまりに楽しいので、この冊子と使い方を妻に教えてあげました。しかし、彼女はそれほど努力せず、すぐに「私は見えない」と諦めてしまいました。今でも私の傍らにはシリーズ本のどれかが常備されていますが、妻は今でも「私は見えない」と残念がります。そうです。この差は決定的です。視点を変えることのできる私には見えても、視点を変えることのできない彼女には見えないのです。私には、"彼女には見えないモノ" が見えているのです。


視点によって異なる情報

前職では2010年に "情報企画課" を立ち上げました。翌年入社の新人達に対し、配属先の希望を募る目的で、社内イントラネットに各部署の紹介記事を掲載することになりました。情報企画課では、そもそも情報を企画するとはどういうことかに焦点を当て、解説図を作成して掲載しました。初心者向けなので分かりやすく、自分でも結構気に入っています。「情報企画」入門講座にピッタリの内容なので、勝手ながら掲載します。


一般的には "リンゴ" なのですが、その本質は意図した特定の "切り口" によって多種多様な姿で表現されます。逆に言うと、リンゴの実体には数々の特性や属性があり、"リンゴ" という名前だけでは本質を表現しきれません。だから、必要な理解を行うために、必要な視点からとらえ、必要な事柄を "情報化" するのです。"情報化" するってことの本質を、誰にでも分かりやすく "情報化" してみた解説図です。面白いでしょ。


視点を変えると見えないモノが見えてくる。
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